日帰り冒険記

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一瞬の出来事だった。 風が止み、目を開けて。――自分の目を疑ってしまった。 一秒も経ってないはずなのに、目の前には何も無かったはずなのに、そこに一人の子供が立っていたからだ。今の、ほんの一瞬の間に現れたとしか思えない。 その子供は女の子のように見えるけれど、男の子のようにも見えた。歳は多分6歳かそこらだろう、ショートカットの鮮やかな若草色の髪、僕を不思議そうに見つめる左右で色の違う大きな瞳(右が太陽の色で、左は森の木々の色だ)。それから、僕らとは違う、ピンと尖った耳。顔立ちはとても愛らしい。 いやいや。愛らしいなんてもんじゃ無い。激烈可愛いっていうか。まるで妖精だ。幼い頃に読んだ、絵本の中に出てくるような。あれと違うのは、この子がちゃんと人間の子供と同じ大きさをしていて、背中に羽が無いって事くらいだ。 「あの…」 妖精が口を開いた。鈴が鳴るようなというと在り来たりだけれど、本当に可愛らしい声。 …こんな可愛い子だったら、僕の様な真面目な人間でも(自分で言っちゃったりして)思わず連れて帰りたい衝動に駆られるような気がする。うーん、幼児誘拐犯の気持ちが解るぞ。解りたくなんか無いけど。 僕が彼(彼女?)にぼけーっと見とれていると、彼は困ったようにちょっとだけ眉を寄せた。 それから、ためらいがちに僕のほうに近寄って座り込んだままの僕の前で立ち止まる。 「…痛い?ここ」 立ち止まり、そう言って血がこびりついている僕の頬を指した。もちろんそこはまだ火がついたようにずきずきと痛んでいる。こんな怪我は久しぶりだもんで、尚更痛い。 「いいや、痛くないよ。大丈夫」 でも僕はにっこりと微笑み、あえてそう答えた。だってわざわざ「痛いよ」なんて言ったら、この子は泣き出してしまうかもしれない。こんな愛くるしい子を泣かせるなんて僕には出来ない。できるのはきっと幼児誘拐犯くらいだと思う。 「ほんとに…?」彼は不安そうに声を小さくして、彼は小鳥のように首を傾げた。その仕草がたまらなく可愛かったのは言うまでも無い。
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