昔話

2/2
前へ
/73ページ
次へ
久し振りだ。 多分、小学5年生以来だ。 竹林がサワサワとなっている。 ばあちゃん家は、どういう訳か、いつでもこんなに清々しい。 ばあちゃん家につくと毎度決って、自転車を借りる。今回もそうした。 いつも学校行くのに、自転車使うじゃない 誰かがそう言ったように聞こえたが、別にどうでもよかった。 ぎこぎこぎこ… 自転車を力一杯こぐ。 初夏の風は、ワイシャツの隙間をぬって入り、高鳴ってくる呼吸やらといっしょにひゅうと過ぎてゆく。 坂を上りきって、ようやく自転車を降りると、そこにある東屋でフゥ、と長い息をはく。 どうが、しだのがいん? 汗かいてぇ 畑仕事をしてた名前も知らないおばさんがこの様子をみて、遠くから声をかけてくれた。 軽く頭を下げ、何でもないというように手を振ったりした。 うん、うん。 まだおばさん元気そうだったな しばらくして ぎこぎこぎこ… 来た道を引き返す。 あたりは程なく夕暮れ時 坂道を下る頃には、とんぼの群が世話しない道案内。 竹林はサワサワと哀愁の音を奏でる。 空を見る。 首元を冷たい風が通る。 雲が赤く白く、散らばっている 別に、急いでなんてない。 急いでる訳もない。 そして、あっという間に、ばあちゃん家についた。 ばあちゃん家からは、鈴虫の声と、あはは あははという声が聞こえて来た。 ふっ…と笑って、自転車を降りると、一目散に玄関をあけた。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加