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車椅子に乗った女性は白いマフラーを巻いてクリーム色のセーターを着ている。だからといって理紗な訳がない。
「そうだよ。まだ時間じゃないじゃん」
遊園地入り口に高々と立てられた時計の短針はまだ一時を指してはいなかった。それなら、と僕は再び辺りを見渡す。
まだ理紗が来ていないことを確認すると、僕はチケット売り場近くのベンチに腰を下ろした。
「そうだ、手をポケットに入れてたら青い手袋が隠れちゃう」
僕は急いで手をポケットから出し、膝の上で組んだ。その時、入り口付近に佇んでいた女性と不意に目が合った。
すると突然、女性は車椅子を自分で動かし、僕の元へと駆け寄ってきた。僕は少し困惑しながら女性から目を離せないでいた。そしてようやく目の前まで来ると、女性は不意に口を開き、僕にこう尋ねた。
「あの、智也君ですか?」
僕は一瞬戸惑った。見知らぬ女性に自分の名前を呼ばれたからだ。
「そうですけど……」
僕が答えると女性は笑みを浮かべ、こう続けた。
「やっぱり! 私です。理紗です。初めまして」
そう言って女性は僕に頭を下げた。僕は一人、困惑していた。
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