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ミーティングが終わり、いつもは居残り練習をするが、今日のはじめは真っ先に向かったのは田口のところだった。
「ターちゃん!!」
はじめの大きな声に振り向いた田口。
田口の足は部室の方へと向いていた。今日は珍しく居残り練習をしないみたいだ。
「なんだよ」
「いや、ちょっと元気ねえかなって思って…。
やっぱり気になるんだろう、開坂が」
はじめの言葉に田口はまたも黙ってしまった。
はじめも参ったなと思い、なんとか話題を転換させようと思ったときに田口がやっと口を開いた。
「少し驚いただけだよ。
今日はたまたま用事があるから早く帰るだけだ。
ったく、わざわざ心配してくれてありがとうよ」
「ターちゃん…」
田口の表情は一気に和らいだ。
どうやらはじめの思い込みだっただけかもしれない。
「いくら高校が同じだからって、あいつが野球部にいるわけないだろう。
聞けば開坂の野球部は普通に強いみたいだからあんな野蛮な奴はいないだろう」
「うん、そうだよな」
「それに…俺達が相川達にやられたのは、ちょうど去年のことだ。
今年こそは関東大会であいつらをぶっ倒さなきゃいけねえからな」
あれから一年経った。
そう、あの屈辱のワンサイドゲームから早くも一年が経ったのだ。
あの時、打たれると分かっていてもマウンドに立っていたはじめ。
それを黙って見ていることしかできなかった田口。
二人の決意はあの日がなければ、きっともっと別の形になっていたかもしれない。
あの敗戦があったからこそ、固い絆が二人に生まれたのだ。
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