第十八話 〈緒方はじめ〉

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はじめのペダルを踏む力がだんだんと強くなり、速くなっていく。 それに従い、当然自転車の速度も速まっていく。 「俺さ、小さい頃に父さん死んだんだ…」 立ちこぎするはじめの腰を後ろから掴む水樹に、はじめは突然言い出した。 水樹は何も言わず、ただはじめの言葉を待った。 「だからもう…母さんを悲しませたくなかった。 父さんが死んだとき、俺母さんに何も出来なかった…何も…何も…」 「……緒方君」 「だからかな…中学生の時まで父さんに縛られて野球をやっていた気がした。 もちろん野球も好きだった。父さんと俺が唯一繋がっていたものだと信じていたから。 だから…結果ばかり求めて野球やるのに疲れたんだよ、俺」 キィー!! 突然ブレーキを強く握った。 誰もいない田舎町、はじめと水樹しかいない。 「だけど今は…甲子園を目指している今の野球が大好きなんだ。 もちろんまだ見ぬ明日に何があるかなんて知らない。 だけどどんな結末が待っていようと、俺は今やっている野球に全てを注ぎたいんだ。 いつの日か、君が心から笑える日が来るまで………」 はじめの誓いにも似たその言葉は、夏の夜空に強く響いた。 もちろん水樹の心にも強く響いたはずだろう。 緒方総一郎。 かつて小さな野球少年は美波という女性を愛し、野球と愛情を自分の人生に注ぎ込んだ。 そして彼の死後から十年経った。 彼の意思と想いは息子・はじめという夢へと受け継がれた。
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