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「…御主人様ぁ…」
独りきりの部屋で
俺は自らを慰めていた。
彼女の一つ一つを思い浮かべ、手を機械的に動かす。
「ぅ…」
虚しさに襲われる。
まだ、彼女の香りが部屋にわずかに残っている。
甘酸っぱい、果物のような香り。
彼女が部屋を訪れなくなって、しばらくたつのに。
それだけ彼女はいつもここへ来てくれていたのか。
虚しさでいっぱいになりながら、俺は果てた。
涙が頬を伝う。
彼女が俺を見切れば、俺に生きる意味はなくなる。
誰よりも愛してる。
そう言った彼女は、
俺が見たどんな笑顔より、綺麗な笑顔をしていた。
そんな彼女を壊したのは、他の誰でもない、俺だ。
彼女を、裏切ったのだから。
ヴヴヴ…
バイブレーション。
机の上に置いてあった携帯を覗き込むと、メールを受信したようだった。
その中に、俺は待ち続けていた名前を見つける。
<アユカ>
急いでメールを開く。
1行だけの文章が表示される。
[明日、遊びに行く。]
何度も読み返し、俺の胸は高鳴った。
また、俺はチャンスを与えられたのだ。
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