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耕太の声は、雨の音に掻き消された。しかし、耕太は叫び続ける。
「行かないで、飛房。僕の隣りに居てよ」
耕太の声が、辺りに突き抜けると、頬を伝う雨と一緒に、耕太は涙を流した。
体の進みを遮り、数メートル先も見えないような豪雨の中を、耕太は手探りで進む。やがて、ぼんやりと消え掛かる、飛房の前へと辿り着いた。
耕太の眼に焼き付いた飛房が、少しずつ薄れて行くのを見て、耕太の全身の細胞が理解する。飛房が消えてしまうと言う事を……。
あの日のように…………。
前触れも無く。
一瞬にして…………。
用意された水受けの器は、溢れ出した感情と言う、洪水を受け止め着れず、耕太の堤防が決壊した。
溢れ出た感情は、声にして呼んで、声にして叫んだ。
「消えるなんて、許さないからな! …………主人の僕が、絶対に許さないから……」
それは、耕太がずっと抱えて来た、飛房への思い。伝えたかった言葉……。
『泣かないで、耕太。一緒に笑おう』
そう言って、飛房は笑った。
その瞬間、豪雨のように降り注いでいた雨が、嘘のように消え、雲間から太陽の光が、耕太と飛房のお墓を優しく照らし出した。
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