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男は微笑を浮かべて、少年と女性を見ていた。
周りは炎に囲まれ、どこにも逃げ場がない。
そこで一瞬、男の姿が霞んだように見えたと思ったら、
「…あ」
短く声を上げた女性から、赤い液体が吹き出した。
膝を地面に付き、息を荒くしている女性のそばに男は近ずき、持っていた刀を上段に構える。
そして……振り下ろした。
「…あぁ…」
女性の赤い液体が少年の顔に飛び散った。
手に付いた赤い液体を……少年を守ろうとした女性の血を少年は見た。
「あぁ…ああ…」
少年の目に写るのは、真っ赤に染まっていく視界の中で、今だに微笑を浮かべている男。
「ああ…あああ…うああああああああああああああ!!」
嘆きと悲しみ、そして……押さえきれない、初めての感覚…殺意。
燃える炎と真っ赤な血に色付けられた世界の中で、少年の声だけが響いた。
─────
「…ちゃん…あ・ちゃん…」
ぼやけた頭の中に誰かの声が聞こえた。
「…ちゃん…お・い…あんちゃん」
最後の方は、はっきりと聞こえた。
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