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「……また竹の中に返すわけにはいかないだろうし、どうしたもんだか。大体、なんだって竹の中に子どもなんかがいたんだい? まさかアンタ、作り話じゃ」
「そこは、信じてくれ。いくら子どもが欲しいからといって、人様からかっぱらってきたって何にもならねえだろ」
「ふむ……確かにアンタは盗人の真似なんかしないだろうしね……。じゃあこの子、親は」
早乃の質問に、海児はかぶりを振る。彼女はしばらく難しい顔で赤ん坊を見つめていたが、やがてそっと抱き上げると、愛おしむように頬を撫で始めた。
「それなら大丈夫かね。ちょっと苦しくはなるがこの子、家においてやれないかい?」
早乃が目を閉じて言う。海児は小さな寝息をたてている赤ん坊を見て、白い歯を見せてニカッと笑った。
「洗濯なんかの仕事は俺がやる。その代わり、ちゃんとその子の面倒見てろよ、コラ」
「アンタこそ、腹いせにアタシの着物を川に投げたりするんじゃないよ? ああそうだ、洗濯で思い出した。見てよアンタ、川にこんなのが流れてきたんだよ」
早乃はそう言うと、家の外に置いていた桃を運んできた。
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