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「やれやれ……もう日が暮れるよ。こんな時間まで何やってんだい」
「あ、お母様」
「やめなかぐや。アタシはあのじいさんみたいにバカじゃないんだから」
「……そーですか」
すまし顔で柵の中へ目をむけるかぐや。
柵の周りには、今や村人全員なのではないかと思われるほどの人だかりができていた。
群集をかき分けてきた早乃は、一体誰がこんなに見せ物になっているのかと柵の中で戦っている二人を見る。
「と、桃太じゃないかい!!」
「え、気付いてなかったの母さん。あいつ、昼前からずっと浦島さんと戦ってるんだよ」
「なんであんたはそんな他人事なんだい!! 早く助けて……」
「違うのよ、母さん」
かぐやが語気を強める。
早乃が対峙する二人の竹刀をよく見ると、切っ先と柄を包む鹿革(シカガワ)がボロボロに破れ、竹刀の弦(ツル)もあちこち欠けていた。
「違うって……」
「浦島さんに強制されてるんじゃない。まだ決着がつかないのよ」
「決着が……!? 昼前からやっててかい!?」
かぐやがうなずく。騒ぎの最中、浦島と桃太の間だけが静寂に包まれていた。
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