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早乃が帰ると、竹やぶへ出かけたはずの海児がお湯を沸かしたり、手拭いを引っ張り出したりしていた。顔は柄にもなく青ざめている。
「何してんだい、アンタ。竹は切ってきたのかい? そんなに手拭いを引っ張り出して、一体何を……」
海児が振り向く。それと同時に早乃の目が手拭いの上に乗せられている『もの』に向けられ、大きく見開かれた。
赤ん坊の女の子が、すやすやと寝息をたてているではないか。
「あ……アンタ、その子……!!」
「ちょうどいいとこに。産湯(ウブユ)を沸かしてるんだが、熱すぎたらいけない。ちょっと湯加減を見てやってくれ」
「いや、誰の子なんだと……」
「後で説明する!! いいから今は俺の言うことを聞いてくれ!!」
久しぶりにこんな剣幕で怒鳴られた早乃はあっけにとられ、とりあえず海児の言う通りに湯加減を確かめ、火を消した。
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