夢の在処は遠い日に

2/20

1516人が本棚に入れています
本棚に追加
/706ページ
「――片桐!」 怒鳴られ、少年は苦い顔をした。片眉を吊り上げ、愛想笑いを試みるが引きつってしまう。 少年の年は16。学ランの第一ボタンと第二ボタンは外れていて、下に着ているオレンジ色のシャツが覗いている。人の良さそうな柔らかい笑みは、今は苦さを含んでいた。 「何だ、この赤点だらけの答案は!?」 「いやー、勉強しようとは思ってたんすけど……ちょっと息抜きにとギターを弾きだしたら止まらなくて……」 少年――片桐空はぼりぽりと頭をかいて答えた。それに対し、中年の担任教師は事務机をバンと叩いた。 「たるんどる!」 「いや、ちゃんと弦は張りましたけど」 「そっちじゃない!」 また怒鳴られて空は重いため息をついた。 「こんな点で卒業出来るとは思っていまいな!?」 「まさかぁ。次からは満点取りますから、大丈夫っすよ」 「そうやって1年間のテスト全て赤点を取って来ただろう」 あはははは、と乾いた笑いをして空は誤魔化す作戦に出た。
/706ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1516人が本棚に入れています
本棚に追加