雪は脆く、冷たく

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「友達と遊び過ぎて疲れただけだ」  正直には言えないから嘘を付く。しかし、酔っ払いの耳は遠い。 「まさか、風邪を引いたんじゃないでしょうね。駄目よ~。今は家に誰もいないから」 「おい! ちゃんとこっちの話しを聞いたのか? 少し疲れただけだって!」  酔っ払いには通じないと思うが言っておく。しかし、独壇場は続く。 「あなたはあんまり風邪を引いた事はないから油断してるけど、昔風邪を引いた時は酷かったのよ。えっと、八年前だっけ?」 「何を訳の分からない事を言ってんだよ。俺は大丈夫だって! ………八年前?」  返答しながら妙にこの単語が引っ掛かった。はて? これはどこかで聞いたような……。 「そうそう。八年前。あなた少し記憶を失う程の酷い熱だったんだから」 「記憶を失う?」 「そうよ。道端で倒れて。近くに北桜蘭病院があったからよかっただけなのよ」 「北桜蘭病院だと?」  あの桜並木から見える病院である。何か分からないがなにかが繋がる。 「だから風邪かもしれないから今日は直ぐに寝なさい。直ぐに帰りますから。いい?」 「ちょっと待って! 他に何か……」  聞き出す前に電話が切れた。直ぐさまかけ直そうと思ったが何と無く止めた。  八年前と失った記憶、そして桜並木に近い北桜蘭病院。  そこには何か小さな糸があるような気がした。  しかし、何が繋がっているのかは思い出せなく溜め息を付く。そして電子レンジの中を開けた。
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