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車道だからといって注意する必要はない。車一つ分しか通れない幅で、しかも通る車はあまり見たことがない。
だからこそ、そんな道(下った先の民家のたんぼの前)に黒いスーツを着、サングラスを掛けた男がいる事がとてつもなく不思議に思う。
「でさ……ちょっと! 聞いてる!?」
「あぁ、今日もいい天気だな」
「こら~~」
ふて腐れ、茜は鞄を振り回す。それを片手で防ぎながら駆け足で逃げる。
「お~お~。朝っぱらからラブラブどすなぁ、お二人さん。鬼ごっこかいな?」
色んな所に抑揚を加えた発言に浩一は坂から下りてくる同じ制服を着た青年の方向を向く。
「あぁ、鬼ごっこでもこの鬼は本当に人を喰うぞ」
「あははは。そりゃ、ホンマやな」
「あんたも何を言っとんや!」
バンッと顔に鞄を当てられ、金髪の青年はよろめき、顔を抑える。
「茜はん、ちったぁ落ち着き~や。ホンマに周りから鬼やと思われるで~」
憤慨した茜が何かを言い返し、それに金髪の青年が上手く返す。
この金髪の青年は久賀塚 擁平(くがづか ようへい)。よくわからない言葉使いをし、抑揚も全く不自然に使う浩一の友である。
その言葉使いをしながら、何かしら正論を言う事や口が達者なのが不思議である。
ただ、自分としては上手く争い事を治めてくれるのは嬉しい限りだ。
隣で段々と騒いでいた茜が落ち着き、始める。
すると擁平は茜を無視して、こちらに話しを持ち掛ける。
「そういや、秋本はん。昨日の番組みたかいな?」
一瞬考え、普通とは別のを答える。
「あぁ、お天気お姉さん変わってたね」
「いつの事言っとんねん? それ先週わいが言ったやろ。ほら、都市伝説うんちゃらかんちゃら」
わかり切った流れを予想し、そそくさと歩みを進める。さっき萎れた茜が身を乗り出す。
「あっ、久賀君も見たんだ。やっぱり、おかしくないあれ!」
「わいもそうやと思う。どう考えてもあの馬鹿共が言ってる事、間違っとるやろ!」
さっきの倍、騒がしくなった。擁平と茜のしたい会話が違うならば静まってくれるのだが、一度でも合うともはや止められない。
自分はいつもの騒がしさを身に受け、静かな青を今日も見上げた。
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