サンタクロース計画

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 西暦2153年 サンタクロース計画の実施  それは光より早い粒子が発見された21年後、速度が0を下回る粒子が見つかった6年後、そしてタイムマシン実験で過去への到達が成功した翌年のことだった。 発案者である須藤真の名前を知らない者は当然この時代にはいないし、この名前の載っていない歴史の教科書は未来のどの時代に行ってもお目にかかれないだろう。 彼はタイムマシン理論、製作における最大の功労者であるとともに、今世紀最高の予言者でもあった。 その彼が自らの予言能力の消失を予言していたこの年に、サンタクロース計画の実施にいたったのは偶然ではない。  説明を忘れていたがサンタクロース計画とは、タイムマシンで過去に戻り、幼いころの自分にサンタクロースとしてプレゼントを渡す、というタイムマシンの最初の有効活用としてはどの目にもばかばかしく見える計画である。 この計画について反対や、先延ばしにすべきではないか、という意見は多数あったが、それでも実施にこぎつけたのは、当然タイムマシンにおける功労者、そして予言者という彼の持つ二つの巨大な権力によるところだ。 この内容は一応極秘事項となっているため、タイムマシン最終実験という名に変えられて、世間の知らぬところとなってはいるのだが、どこから漏れたのかその名前と誤った内容が、須藤の予言という形でまことしやかに噂されていた。  何はともあれ今、彼は自身の手掛けたブロンズのタイムマシンに一人で乗り込み、35年前の12月24日、彼が7歳の時のクリスマスの日へと飛び立つ。 時速428日まで速度を上げたこのタイムマシンなら、30時間もかからない。 その場に集まった数多くの人と、全世界にその光景を送信するこれまた多くのカメラが見守る中、彼を乗せたタイムマシンはあっけないと感じるほど静かな音を残し、ゆっくりと霞んでゆくように過去へと消え去っていった。
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