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タイムマシンの中、先ほどまで人々の見送る姿を映していた窓は閉じられている。
一般の時間とさかのぼる時間は交わらないので、窓には何も映らないのだ。
どのみち、太陽が10秒も待たずに一周する速度が出ているので、映ったところで時をさかのぼる世界のものはほとんど見えやしないだろうが。
タイムマシンのただ一人の乗組員である須藤は、この機械の製作の時に、他の者に内緒で作っておいた引き出しを静かに開き、中から数冊の日記とノートを、丁寧に、さも大事そうに取り出した。
これらは彼がまだ7つの時にもらい、4年後の11歳の時にその存在を知って以来、現在まで31年間世話になり続けたものの、正確な写しである。
中には彼が7歳の時から42歳になるまでに起こったことのすべて、その間彼が予言した内容のすべて、そしてタイムマシンに必要な情報のすべてがこと細かに記されている。
そう、これらこそが彼の予言のタネであり、須藤がサンタクロース計画を立案し、無理にでもその実施にこぎつけた理由なのだ。
彼はその中で一番新しい日記の、最後のページを開いた。
「……2153年12月15日 タイムマシンに乗り35年前へ行く。ぬいぐるみの中に日記とノートの写し、防腐剤を入れる。」
何度読み返してみてもこれしか記されていない。
その後にわずかに続くあまったページにも、ただ日記型の枠が印刷されているだけで何も書かれてはいない。
これをぬいぐるみに入れれば、11歳になった自分が発見するまで開かれることはないのだから当然だ。
最初は長かった日記も、もう予言することが残されていないことを考えれば、極端に短いのにもうなずける。
しかし、今まで日記を頼りに生きてきた須藤にとって、これからの事が書かれていないのは、どうしようもなく心細かった。一日と6時間後に過去に到着したあとの事は、すべて自分で決めていかなければならない。
よりにもよって、保障されていない時を刻む第一歩を、35年前という普通でない場所に踏み出さなければならないのだ。
須藤は生来の親友との別れでも惜しむかのように、随分と長い間日記の最後を見つめていた。
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