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須藤の暮らしていた家は町のはずれのほうにあった。
明るさも控え目になった家の前の通りで、須藤はどうしたものかと困っていた。
自分が家の中に入るのは好ましくない。
この時代の自分と関わりを持つことだけはなんとしても避けなければならないのだ。
当然あらかじめ万端の準備をしてきたのだが、日記を失った須藤はその危険を冒して家の中に入る勇気がどうしても湧かなかった。
踏ん切りがつかぬまま意味もなく辺りをきょろきょろと見回すのも、もう二桁を軽く越したころ、須藤は異様な赤服がうろついているのを目の端に捉えた。
赤い服はどうやらサンタクロースの格好だったが、持っている白い袋はポケットに入るほど小さかった。
その男は家をじっと見つめては、肩を落とし落胆を表すと、また次の家をじっと見る、というのを繰り返していた。
見れば見るほど異様である。
自分の知り合いにこんな男はいなかったはずだと思い須藤は、不信感と好奇心に駆られてその男に声をかけてみた。
須藤のかけた言葉は多少の不信感こそ含んでいたが、いたって普通の挨拶と質問で、その男の見せた過剰な驚きは須藤の不信感をさらに募らせる結果となった。
しかしその男のとっぴな話は、須藤の不信感をぬぐって余りあるものだった。
その男は名をサンタクロースといった。
須藤が彼をサンタクロースだと確信したのは、彼の小さな袋と、空中にとどまっているトナカイとそりを確認したからだ。
彼の小さな袋はいくらでも物を入れることができるが、ある程度の量になると袋の大きさの変化はどういうわけか止まる。
こういった技術は、この時代にはまだないものだ。掟のようなもので人との接触を許されないサンタクロースは、その時代の人の位置を感覚的に理解しているため、後ろから突然声をかけられたことにとても驚いたということだった。
久しぶりに話ができる彼は、悲惨なサンタクロースの現状を自分から須藤に話してくれた。
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