1.召喚

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  「あっ、新撰組のスチュワードだ」 「まさかー。あんな分かりやすい恰好してるわけないよ」 「それに、女の子じゃん」  やはり、と言うべきだろう。繚の通る道からは、必ずそんな会話が聞こえてきていた。本人は対して気にした様子もないが、一緒に歩く刀悟は恥ずかしいらしい。  彼は誰かに服借りないと、としきりに呟きながら、顔を伏せて早足で歩く。 「刀悟、歩くのが早いぞ! 私に合わせぬか!」 「うるさい、誰のせいだよ! 自分の恰好を見てから文句言え!」  小走りになりながらついて来る繚に、刀悟は多少怒りを露にしながら言った。しかし、彼女は自分の服装を眺め、首を傾げる。 「何がおかしいのじゃ?」 「時代錯誤にも程があるだろ!」  ここでようやく、繚は合点がいったように首を動かした。興味のない知識を受け取らなかった彼女でも、それくらいは理解できたらしい。  ただ、それは所詮どうにもならない事で。そんな事は刀悟も重々承知である。今は一刻も早く用事を済ませ、部屋に戻る事を考えるべきだ。  更に早足になる二人の前には、待ち構える一つの人影があった。  
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