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「それにしても、他のスチュワードがおらんのう……つまらん。近藤や沖田に逢えるかと期待してたんじゃが」
彼女の足跡の上ではちょっとした騒動が巻き起こっていたが、当人とその主は意に介さない。話題は大体理解できるし、内容を聞く必要もそれを否定する理由もないからだ。
階段を上りつつ、刀悟はおとなしくついて来る彼女を見下ろした。
「近藤と沖田って、やっぱり近藤勇と沖田総司だよな?」
「他に誰がおる? 下らぬ事を聞くな」
軽く突っぱねられた刀悟だが、繚はそういう奴だ、と既に割り切ったらしく、特に不平不満を漏らすことはなかった。
涼やかな風が吹き付ける渡り廊下の上では、昼食の弁当を広げる生徒がちらほら見受けられる。丁度お昼時なのだが、今日は休日であるために、部活に精を出す者くらいしかここにはいない。
その様を珍しそうに見渡しながら、繚は三階へと歩を進める刀悟に追従した。
「ここが目的地。分かってると思うけど、粗相がないように」
やや抑えめの声で刀悟が言う。繚の目の位置よりも少しばかり高い場所には、プラスチック製のプレートが貼り付けられていた。長方形のそれに刻まれている文字は、『桐島研究室』。
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