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「スチュワードというのは、別に生前の姿そのままでは現れないんだよ。自分が潜在的に抱いていた理想像が強く明確であれば、それが反映された姿で現れる事も多い」
机に向かい、書類を書きなぐる刀悟を尻目に、桐島はゆっくりと喋り始めた。彼の話を聞いて、繚は低く唸る。
「つまり、私が男になりたいと強く思っておれば、男の姿で現れたという事なのか?」
「いや、さすがに性別は変わらないよ。変わるのは精神的、あるいは表面的なものだね」
感心と落胆の混ざった相槌を打つ繚。今の質問を聞くに、繚はやはり女である事に負い目を感じていたのだろう。
いくら死んでスチュワードになろうとも、生まれ持った身体は変えられないという事だ。もし変えられるとしたら、同じ姿の者が大増殖してしまう可能性があるからかもしれない。
複雑な表情になった繚に、桐島は軽く微笑みながら続ける。
「今までで一番強烈だったのは、まるで黒のカリスマみたいな外見の巨漢なのに、女装癖のあったスチュワードかな」
桐島のいかにも強烈そうな喩えに、刀悟は書類に向かって思わず吹き出してしまった。不快そうな顔でそちらを見る桐島に、彼は申し訳なさそうな顔を見せながら問う。
「黒のカリスマって……蝶野ですか?」
「あくまでこれは比喩だから。ただ、雰囲気に共通するものはあったね。彼は要するに、見た目とは違って可愛い物が好きだったんだ。その意識が強かったから、召喚された時に性格へ反映されたんだろう。召喚主は女の子だったんだけど、一瞬で契約破棄したらしいね。召喚証明のためにもう一回召喚してもらった時は、本当に泣きそうだったよ」
サングラスを掛けた強面のムキムキ男が、フリルのドレスで現れる――。もし自分の時にそうなったらと思うと、ゾッとしてしまう。刀悟は肩を震わせ、つくづく繚は普通で良かったと思うのだった。
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