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「あと、もう一つ」
過去を顧みて、ただ立ち尽くすだけの繚をひとまず放置し、蓉子はまだ言葉を続ける。形式上、聞く体勢にはなっているが、刀悟の顔面は明らかに「面倒臭い」と言っていた。
ただ、蓉子は引くわけにいかないらしく、明らかに聞く気のなさそうな二人をしっかりと見据える。そして、彼女自身も気乗りしなさそうな顔で口を開いた。
「桐島先生から伝言です。そのまま伝えますね。『相手が決まりましたよ、刀悟くん。確認を取るので、研究室まで来て下さい』」
「何!? 本当か?」
一瞬前とは打って変わり、刀悟は晴れやかな顔で蓉子に問い返す。彼女はその豹変ぶりにも対した反応を見せず、ただ首を傾げてみせるだけ。
ただ、それを聞いた刀悟は、棒立ちする繚の横をすり抜けてテレビ類の電源を消し、再び戻って繚の肩を叩く。
「繚、やっと昇格試験が受けられるぞ! 研究室に行こう! 蓉子、ありがとな!」
それだけ蓉子に言い残すと、刀悟はすぐに校舎へ向けて走り出した。繚も突っ立っているわけにはいかず、しっかり彼の後ろ姿を追い掛けていく。
部屋に一人残された蓉子は、まるで嵐が過ぎた後のような部屋の散らかりようを見、そして小さくなっていく二人の後ろ姿を見て、大きく溜め息を吐いた。
「もう、相変わらずなんだから……」
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