Deathtiny

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  「ちっ……お前たち、女相手に何を手間取っておるのだ! 早く仕留めんか!」  兵の後ろで、大将らしき男が叫ぶ。俺が橋を落としたせいで、道が無くなって困ってるんだろう。いい気味だ。近藤や沖田を始め、共に戦った同士たちを追わせるわけにはいかないからな。  向かってくる兵士の頭を兼定の柄で殴り、足を払ってそのまま流す。続けざまに迫った二つの槍を力任せの斬撃で両断すると、さすがに敵の顔色も変わった。  休んでいる暇はない。兼定の刃は兵士の肩口、腰、首筋を次々と斬り裂いていく。この時既に、全ての動きは俺の意志から離れていた。身体を動かすのは防衛本能のみ。 「このままでは埒が明かん! 鉄砲兵を呼べ!」  鉄砲兵……? それはまずいな。矢みたいに弾くのは無理だし、まず避けられない。鉄砲が到着する前に、一人でも多く敵を減らさないとな。  息は荒くなる。身体は冷え、今にも凍えそうだ。集中力も明らかに落ちていて、限界を叫び出す時がすぐそこまで迫っている。  それでも俺は、仲間のために刃を振るい続けなければならない。感覚の無くなった諸手で兼定を握り、目を見開いた。  降り掛かった灰塵を払うように刃を舞わせ、飛び散る鮮烈な赤を爛漫の桜花と見紛う度に、俺の中から倫理が欠け落ちていくのを嫌でも感じてしまう。  この殺陣を――殺し合いを愉しんでいる俺は、狂人の部類に振り分けられても最早文句は言えないだろう。  そして。火薬の弾ける音が耳を潰すのと同時に、俺の視界は暗転した。  
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