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生温い赤が、冷ややかな流れに融化する。熱いのか冷たいのかも分からない――そんな感覚すら、時を経るにつれて消失していく。
もう痛みも分からなくなった。流転と浮遊を繰り返し、俺の身体は麻痺する。自分が上を向いているのか、下を向いているのか、それすらも掴めなかった。
……いや、俺は下を向いている。肺に冷たさが侵蝕してきた。水を飲み込んでも、むせる事すら出来ない。流れ込む『死』の感覚を受け入れる身体は、もう俺の意思を聞き入れるつもりはないようだ。
視界が真っ赤に染まる。その視界も、活動する事を諦めた瞼が覆ってしまう。何も見えず、何も感じない。そんな状況でも、絶えず働き続ける思考が憎らしくてたまらなかった。
痛みはない。苦しみもない。あるのは迷いだけだ。この感覚を『死』と呼ぶならば、それはあまりにも想像と異なっていた。
もっと苦痛に満ちたものならば、覚悟も出来るのに。いつ来るかも分からない終わりを待つのは、なかなか辛いものがある。
近藤や沖田、仲間の隊士たちは逃げ仰せただろうか。この五稜郭に散るのは、私だけで充分だ。彼らには逃げてもらわなければ。
新撰組の隊士として――土方歳三として死ねるならば、私にもう悔いはない。
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