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息が詰まるほど濃く、密度の高い魔力の奔流。その圧力は今にも天井を穿つ激流となり、蒼穹への道を拓きそうである。
狭い部屋だ。薄暗いせいで正確な広さは特定できないが、家具などがある事を勘定に入れると、人一人寝るのがやっとだろう。
蝋燭の炎が揺らめく台の前には、細身の男が悠然と直立している。仄かな明りに照らされ、怪しげに映し出される彼の表情からは、抑えきれない興奮が簡単に窺えた。
「やっとだ……やっとスチュワードを呼べる」
彼の声の節々からは、やはり高揚感が感じ取れた。これから起こる事への期待感がどれほど大きいか、ある程度は察する事ができる。
「召喚主、冴木刀悟(サエキトウゴ) の名において命ず。我に従うべきスチュワード、土方歳三! 時に剣となり、時に盾となり、その力を我の為に行使せよ!」
魔力はさらに濃度を増す。台風のような勢いを真正面から眺める刀悟は、時が経つにつれてどんどん気持ちが高ぶっているように見えた。
床に散らばる本は、巻き上がる風によって、鳥が羽ばたくような音を忙しなく立て始め、様々な家具は命を吹き込まれたかのように鳴動する。しかし、それはすぐに静止した。
微動だにせず、ただ直立する青年の前では、段々と竜巻の如き強風が治まりつつあった。その代わりに、人影が一つ。
怪しいのだが、どこか清らかでもある、掴み所のない気配。刀悟はそれに興味を示しながらも、あえて背を向け、手探りで蛍光灯から下がる紐に触れる。それをそのまま引き下ろすと、部屋には光が灯った。
それと同時に、台風から現れた者の姿も明らかになる。それを見て、心踊っていた刀悟の表情が、驚愕と懐疑に曇った。
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