1.召喚

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  「それにしても、狭い部屋じゃのう……。日本の召喚術学院には、この程度の施設しかないのか? 英国を見習った方がよいな」  繚がこの場所に来てから、早いことに三十分が経つ。彼女は顔のすぐ近くにある壁に手を当て、頬を膨らませながら呟いた。  この部屋は、学院の敷地内にある寮の中の一つで、まだ召喚士として未熟な者たちが集められる場所だ。  ただでさえ狭く、二人でいるのは大変だというのに、とてつもなく散らかっているせいで実質的にはもっと狭く、繚としては肩身が狭い。  刀悟は肩を竦めてみせながら、食器棚の中にあるコップを二つ取り出す。それを机の上に置くと、今度は冷蔵庫を開いて麦茶を出した。 「茶。飲みたかったら飲め。イギリスがどうなのかは知らないけど、狭いのは仕様だから仕方ない。ちゃんとしたスチュワードを召喚して、クラスを上げてけばそのうち環境もよくなる。俺はまだCクラスだし、これが妥当だよ。環境を変えるには、お前の協力が不可欠だ」 「何じゃ? ここより大きい部屋に移れるなら、協力を検討してやるぞ」  冷水ポットから麦茶を注ぎ、コップを両手で持ち上げながらそれを飲む繚は、期待に満ち溢れた顔で刀悟を見た。  召喚士のクラスは、一番上がSS、下がDである。つまり、刀悟はまだかなり下に位置するわけだ。  彼は足下に散らばる本を蹴飛ばし、自分が座る場所を作る。そして、机を挟んで繚の前に座ると、口許を吊り上げながら微笑した。 「まずは、学院について来てくれ。昇格試験の申し込みするからさ。話はそれからだ」  
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