今此所に在る意味

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ビルの屋上で、物憂げに佇むフィフィ。 アノンの憎悪に燃える眼差しが、頭から離れなかった。 「…あの、シルバーツ博士」 1人、赤毛のツインテールを風に靡かせる女性に、ミリアは声を掛けるものの、次いだ言葉を見付けられないでいた。 「…エリーはね、あたしの幼馴染みで、親友で、家族で… あたしがそう在る為の、あたしの全てだったの。 あたしが意識を失うまで、あたしを守り、死力を尽くして戦うその姿を、鮮明に覚えてる。 なのに今は、エリーを感じられない」 自分に背を向ける偉大な科学者が、泣いているのが分かる。 「あたしの残したものが何を生んだのか、理解してる。 あたしには、それに向き合わなきゃならない責任がある。  それも分かってる。  でも」 フィフィの背が、震えていた。 その姿は儚げで、あまりに痛々しく見えた。 「エリーがいなくちゃ、あたし、どうしたらいいか分からないよ…」 声を殺し、それでも消しきれない慟哭が風に乗り、響く。 フィフィは罪悪感と、アノンの抱える殺意に押し潰されそうだった。
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