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「あの、久保さんはあそこで何してたの?」
ベッドで横になっている久保さんに尋ねる。
「俺か?」
体を起こし、目を細めて、手で掴んでシワになった布団を眺めながら、彼は思い出そうとして口にしかける。
「俺は――…っ」
「…」
「駄目だ。思い出せない……。何もかも。自分の事、さえもだ」
そう言って、彼は広げた手を見つめ、ぎゅっと拳を握りしめた。
久保修介。21歳、大学生。
髪は茶髪だが、ちゃらちゃらしている感じはなく、真面目で爽やかそうな印象を持つ。
「そうだ、名前何て言うの」
「笹原奈緒。あ。これ返すね。ここまで来るのに久保さんの免許証見ちゃった」
「財布。…俺、久保修介っていうんだ」
「…?」
「………」
名前すら忘れてしまうなんて。昨日は一体何を…。
そう、彼に会ったのは昨日のことだった。
*
「何よ、由里ったら」
彼氏が出来たからって、もうあたしと遊べなくなるかもーって。
『奈緒。お互い、彼氏いたって仲良くしようね』、とか言っておいてさ。
いつもなら由里と一緒の帰り道、由里は居ない。今日から一人なんだ。
「でも、あたしも応援してたんだよね」
良かったと思ってる。由里がそれでいいなら。あたしだって由里だけが友達ってわけじゃないし。
…本当は親友を取られた感じで複雑な気分だった。
「こんなときは買い物しよっと」
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