あたしと彼の時間

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やっぱりあたしに長居させるのはまずいと思ってくれているみたい。 だけど、本当は思い出すのが怖いんだと思った。 「久保さん。今はゆっくり休むことが大事だよ。 急ぐ必要はない」 「…」 腕を組んで、下を向いて少し考えた後、優しく微笑んだ。 「分かった」 虫たちの鳴き声だけの静かな夜を迎える。 暗くなった部屋。 布団をかぶって、また久保さんのことを考えていた。 過去の久保修介という人物。 記憶を失った本人は部屋の隅で一枚のシーツにくるまって静かな寝息を立てている。 部屋には小さな勉強机がある。 久保は近くの大学に通う大学生だった。 奈緒が気になったのは机ではなく、そこにあるもの。 起き上がって、机の前までに来ると無造作に置かれたアルバム。 開くと写真が一部抜けている。 アルバムの中の写真に、久保さんと写っているのはどれも同じ綺麗な女の人だった。 「彼女…なのかな」 一人、ぽつりと呟いた。 あたしには何か女の人が軽そうに見える。 そう見えたのは女の勘ってやつだと思う。 笑顔の二人の写真が気になって、アルバムから取り出す。 その拍子に一緒にポケットに入っていた紙切れがひらひらと畳の上に落ちていく。 紙を拾う際、ごみ箱の中の破り捨てられた写真が目に入った。 破られた写真にはそこにも笑っている二人。一枚だけじゃない、何枚も。 何枚も。 手の中にある紙。 『修へ』 女の人の字で久保さんに宛てたメッセージが書いてある。 『今日は楽しかった。ありがとう。また来ようね』 大事にしていた写真を捨てるなんて。 『涼子より』 書いた人の名前は、涼子。どこかで聞いた。 それもつい最近のような気がするのに思い出せない。 思い出すことを諦め、アルバムを元の場所に戻してまた布団に入る。 大事なことなら後からでもちゃんと思い出せる。 きっと久保さんの記憶も。
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