やってきた幸せ

2/11
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/104ページ
 俺は当麻 豊。24歳。  社会人として…頑張っている、と思う。慣れない土地での一人暮らしは、なかなか大変だが、こうして無事に職にもつけた。平凡ながらもそれなりに幸せだ。 …ただ一つの悩み事を除いては。  悩みというのは、俺の住むボロアパートの隣人の事である。 「当麻さんですか。こちらこそよろしくお願いします」  引っ越しの挨拶に行った時、その青年はにこやかにそう答えた。彼は俺の右隣りに住む、林という男だ。金髪の髪を背中の中程まで垂らしている。 「…時々…うるさくすると思いますけど」 「え?」  …そう言われた理由はすぐにわかった。その晩、とてつもないエレキギターの音が、俺を仰天させたのである。 …彼は言う。 「俺、世界一のギタリスト目指してるんです! まずは手始めにバンドデビューを目標にしてまして」  俺は音楽にあまり詳しくはない。センスも才能もないとは思う。しかし…  彼のギターの演奏は、お世辞にもうまいとは言えなかった。はたして、努力が報われる日が来るのだろうか…。  そんな演奏を時間も関係なく聞かされてはたまらない。注意しても改善の余地無し。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!