プロローグ

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「心の底から愛していた人だ。だけど、死んでしまった」 「それは病気で?」 「いや、殺されたんだ…残虐に…」 「っ!!」 その瞬間、全身が総毛だった。 「君は記憶を失っているんだよね」 「あ、はい」 「行くところある…わけないよね」 「はい…」 行くところなんてない。 帰るところなんてない。 私はどこへ行けばいいのかわからない。どこへ帰ればいいのかわからない。 そんな暗い表情をした私を見て、青年は安心させるように軽く私の肩に触れた。 「君さえ良ければ、私の所に来るかい?」 「え、でも」 「遠慮なんかしなくていいよ。これも何かの縁かもしれない。それに…」 青年が眩しそうに目を細める。 懐かしいものをみるような目で私を見た。 「やっぱり、似ているんだ。雰囲気もその綺麗な栗色の髪も。その、エメラルド色の瞳も」 「……そんなに似てるんですか?」 「あぁ、似ているよ。最初は違うかもと思ったけど、やっぱり君は似ている。マリアに」 知らない人に似ているといわれると普通は反応に困ったり中には嫌に思う人もいる。 しかし私はどちらでもなかった。 何故か嬉しいと、思ってしまった。 この人とは初めて会ったのに、その言葉が聞けて嬉しいと、そう思ってしまった。 「あの、私、貴方のところにいてもいいんですか?」 「いいよ」 微笑むと青年は手を差し伸べた。 その大きな手を私は躊躇う事もなく彼の手の上に置く。 とても温かい手だった。 「私の名前はヒース。売れない人形師だ」 「人形師?」 「外で立ち止まって話すのもなんだから、中に入ろうか」 「あ、はい」 あれ?でもオイル買いに行く途中じゃ… そう言おうとしたが、人形師という言葉に興味があったので、私は何も言わず中に入ったのだった。
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