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不思議そうな顔でテュールが見つめてくる。
「そうしたらもっとこの気持ちを味わっていられたのに」
「……これから作ればいい」
「え」
「これから作ればいいさ。外の思い出をな」
「兵士さん…」
「だ…だから俺の名前は………もういい」
テュールは諦め、大きく溜め息を吐くとクリスティアの頭をわしゃわしゃと犬に撫でるように乱雑に撫でた。
「きゃ、な…何?」
「目の前にクリスティアの頭があったから撫でてみただけだ。深い意味はない」
「撫でるのはいいけど、痛いわ」
加減をしらないのかテュールは強く撫でてくる。
「痛いのは…ちょっとした反抗」
「?」
「……俺の名前を覚えないクリスティアの、な」
「え?」
「いや」
小さく呟いていて聞き取れない。
テュールはようやくクリスティアの頭から手を離すと、腕を大きくあげて欠伸をした。
「ふぁ…、にしてもいい天気だ」
「そうね。青空だわ。私…本当に外にいるのね」
未だに信じられない。時々夢だと思う時もある。
「…昔読んだ本にね」
「ん?」
「今の私と似たような女の子がいたの」
昔読んだ絵本。今でもお気に入りの絵本。
「その少女は生まれつき躯が悪くて一度も外に出た事がないの。外というものがあるのかもわからなくて、部屋には窓の一つもなかった。だけど少女には外の世界があるのではないかと感じていたの。みた事も本当にそうなのかもわからないまま少女はクレオンに絵を描いた」
「それが外の風景だったのか?」
「うん、青い空の下に、自分の家、そして少女がたった一枚の絵。少女は笑っていた。そしてその絵を枕元に置いて眠ったの」
そして夢をみた。
青い空をみつめた少女が楽しそうにしている夢を。
誰にも縛られる事がない、笑顔で笑っていられる夢を。
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