あなたへ

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あなたへ あの長い長いトンネルを抜けてあなたに逢いに行こうと思います。いつまでもくよくよとするのは私らしくないと、あなただってきっとそう思っているに違いありませんから。いつだって美しかったあなたのことです。そちらでもきっと可憐に、溌剌と過ごしているのでしょう。 私はというと、恥ずかしいことと存じてはいますが、なかなか寝付けない日々の中でほそぼそと呼吸をしておりました。いま一つ生きているという実感のない毎日でした。たくさんの友人が、大丈夫か大丈夫か、と私の身を案じて訪ねてきましたが、そのたびに私は自身のことではなく、そちらへ行かれたあなたは大丈夫か、と友人の言葉などうわの空になってしまってやはりあなたのことばかり考えてしまうのでした。 私はあなたと離れ、そうして私の弱さに触れることができました。それは力でねじ伏せようと力んでもとても消えてはくれず、かえって自身の心のもろさというもの、弱さの中にあるもろさに気が付いてしまうのです。それからは堂々巡りです。弱さの中にあるもろさを打ち破ろうとすればもろさの中にある悲しさがひょこっと顔を出すのです。それらは、すべて私の分身と分かってはいてもどうしてか今の私にはあってはならぬもののように感じてしまうのです。しかしそのような堂々巡りもそしばらく繰り返すと終着を迎えました。終りにあったのはほかでもないあなたでした。つまり私の中心、魚の目のような心のその芯にはあなたが潜んでいたのです。どうということはありません。私は私の中心、いわば心臓を失ってあの日から生きてきたようなものだったのです。それに気がついた時にハッとしました。と同時に安堵もしました。あちらに行ってしまったあなたは、こちらに残っている私に確かにその存在を現実のものとして残してくれたのですから。それは空になったと思われた私の心に唯一宿った真実のように思えました。これまたお恥ずかしい話ですが、それに気がついたときに私は涙をこらえることができませんでした。これまでのあなたとの日々がそれこそ濁流のように私の空だった心に流れ込み、それこそ一瞬にして虚無だった心はあなたで一杯になりました。間違いはないと、これまでの日々は私の大切な命の一部なのだと確信しました。
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