あなたへ

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 それから長い月日をたったの一人で過ごしました。しかしその一人というのは、私と、そしてあなた以外の第三者からみた場合であって、おそらく(あなたもそうであって欲しいと思うのですけれど)私たちは中睦まじく暮したように思います。それは、皮肉なことと思いますが実際に二人で過ごした時間よりも濃密でありました。理由はいたって単純で、それでいて幸福です。何をしていても、心にはあなたしかいないのです。ただあなただけが、私の老いていく姿を見ていてくれるという安心感、それだけで私の単調に見える日々は色褪せてゆくどころか、より色彩を増してゆきました。  もうあの長い長いトンネルは目の前にあります。あなたがしばらく前に通っていったトンネルです。動かなくなった左手ではうまく紙を押さえることができないので、少しばかり読みにくくなってしまいましたが、あなたに読んでもらいたいと思い、筆をとりました。久しぶりに再会するあなたに何の贈り物も贈らないのでは再開も味気のないものとなってしまうやもしれないと思ってのことです。そちらで二人仲良く、笑いながらこの恋文を読むことができることを願って眠ります。 私の最愛の人へ。                         二〇〇八年九月六日
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