15人が本棚に入れています
本棚に追加
ところが二人の静寂は突然、破られた。
越してきた隣人の部屋から大音量でクラシック音楽が響き始めた。
「ドボルザークか・・・」
「『新世界より』ね。懐かしいわ」
昭彦と洋子は、二人が交際を始めたばかりのデートで行ったクラシックコンサートをお互いに思い出していた。
「きっと引越しのお祝いでもやっているんだろう」
「きっと、そうね」
それにしても音量が非常識だ。
始めのうちは我慢していたが、一時間経っても音量を下げる気配が無い。
そろそろ窓の外が暗くなってきた。
「あなた、注意してきた方がいいんじゃないかしら」
「そうだな」
昭彦が本をテーブルに置き、ソファから腰を浮かせた途端にピタリと音楽が止んだ。
「どうやら最低限の良識は、わきまえているらしい」
引越しの挨拶へは結局、来なかったが・・・。
洋子が、またフフンと鼻を鳴らして笑った。
他人に向けられた場合は気にならない様だと、昭彦は気が付き、少し口元を緩ませた。
最初のコメントを投稿しよう!