かたつむり

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ところが二人の静寂は突然、破られた。 越してきた隣人の部屋から大音量でクラシック音楽が響き始めた。 「ドボルザークか・・・」 「『新世界より』ね。懐かしいわ」 昭彦と洋子は、二人が交際を始めたばかりのデートで行ったクラシックコンサートをお互いに思い出していた。 「きっと引越しのお祝いでもやっているんだろう」 「きっと、そうね」 それにしても音量が非常識だ。 始めのうちは我慢していたが、一時間経っても音量を下げる気配が無い。 そろそろ窓の外が暗くなってきた。 「あなた、注意してきた方がいいんじゃないかしら」 「そうだな」 昭彦が本をテーブルに置き、ソファから腰を浮かせた途端にピタリと音楽が止んだ。 「どうやら最低限の良識は、わきまえているらしい」 引越しの挨拶へは結局、来なかったが・・・。 洋子が、またフフンと鼻を鳴らして笑った。 他人に向けられた場合は気にならない様だと、昭彦は気が付き、少し口元を緩ませた。
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