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「今度こそ解放してやる。今まで…酷い事して悪かったな」
「そんな…そんな…事…」
涙があふれる。男は笑った。
「お前は優しいな。一時でもお前の優しさに触れられて良かった」
「……」
あぁ…玄関に向かう。
「……行くから」
「?」
「会いにいく…から」
逮捕されても…会える時間が短くてもまた会える…
だから…寂しくない。ちょっとだけだ…寂しいのは。
「…いってらっしゃい」
「あぁ…いってきます」
そして彼はドアを開けた。
その後は説明しなくてもわかる。
開けた瞬間手錠をつけられ、拘束される。警察ははっきりと彼が犯人だと掴んだのだ。
彼は抵抗しないまま警察二人に連れられた。残り一人の刑事が家に上がり込む。
そして私を見つけた。
刑事は何かいっていた。人質を確保したとかなんとか。
何か話しかけてきたけど私は彼が連れられた悲しみに言葉を失っていた。
刑事はよほど怖い思いをしたのかと誤解を受けていたが、私は刑事にパトカーに連れられるまでただただ俯いていた。
外で待機していた数名の警察官は彼の家に入っていった。
そして私は刑事に久しぶりの我が家に送ってもらった。
久しぶりで嬉しい筈。外も久しぶりなのだから。
しかし彼がいない…
とても空虚で今の私には嬉しいという気持ちが欠片もなかった。
元の生活に戻れるのに…馬鹿な私…
そうして母が涙を溜めて出迎え、彼を酷く蔑む言葉を吐き出しながら私を抱き締める。
私は無言で母の言葉を耳にしながらそれらの言葉を心の中で否定したのだった―
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