蘇る忌まわしい記憶…

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「面会だ」 「!」 俯いていた男の顔が途端に光を戻した。 男は面会相手に会いにいく。 透明の壁に隔てられた向こうには離れても毎日くる愛しい人。 「ちゃんとご飯食べてる?」 私は毎日心配だ、彼の事が。 彼は笑いながらちゃんと食べてるといった。 逮捕されてから彼は毎日おとなしく生活していた。 このままおとなしくしていたら仮釈放くらいしてやると冗談で言われた程。 しかし彼はその言葉を強く信じているから、毎日苦痛でも大人しくいう事をきいている。それが逆に看守が驚いているが。 あれがあの切り裂きジャックなのかと疑う程… 「早く会いたい」 「俺も…」 その様子を監視していた看守は驚いているのだった。 「また明日来るね」 「いつも悪い」 「ううん」 毎日会っていた…それがどのくらい会っていたか詳しくはもうわからない。夢中だったから… 私は名残惜しい気持ちを胸に彼と別れる。 残された男と看守。看守は男にいった。 「あの人質がまさかお前と愛し合う関係だったとは」 「最初は確かに人質だったかもな…でもあいつは俺を常に信じてくれた…大切な奴だ」 「そういう人に出会えたからお前は変わったんだな。俺は弁護士じゃないが、生まれ変わりたいと少しでも望むなら助けてやりたいと思うよ」 「……気持ちだけで嬉しいよ」 もしかしたら仮釈放も夢じゃないかもと早くも男は思ったのだった。 最近…だるい。 「…レモン好きだった?」 母が訝しげに言う。 「いつの間にか好きになったみたい」 味覚が変わったのだろうか。 今は無性にレモンを食べたい気分だった。 しかし少しして… 「う…」 私は洗面所に走る。 蛇口の水を流したまま、口の中の苦味を水で落とす。 口元を手の甲で拭う仕草をしながら私は鏡の前で驚いた顔をする。 そういえば生理きてない事に気付く。 まさか… 私は念のために買っておいたものを取り出して調べる。 「…陽性」 妊娠…赤ちゃん…… 信じられない気持ちと彼の子供が産める嬉しさに涙が出る。 しかし私は気づかなかった。その様子を母がみていた事に……
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