蘇る忌まわしい記憶…

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「私の精神が異常だと言うの?私は正常よ」 「皆そういうわ」 母は私の言葉を軽く受け流すと予約していたのかすぐに呼ばれた。 人の良さそうな人が私を見つめる。 「私は…異常じゃないんです…あの人の子供を産みたいのになんで邪魔するんですか…愛し合っているのに」 「……なるほど」 暫く私の訴えをきいていた医師はやがてぽつりと言った。 「ストックホルム症候群ですね」 「ストックホルム症候群?」 母が首を傾げる。 「自分に危険が生じた時…もう死ぬかもしれない恐怖に…人は犯人に気に入られようと必死になる。そうして気付けば恋心を抱いていたというのがストックホルム症候群なのですが…でも少し違うかもしれないですね。娘さんからは強い自己暗示の傾向が見えます」 「自己暗示?」 「自己暗示なんかじゃありません!私は心の底から…」 「では質問を何点かしていいですか?」 医師が私に微笑みかけた。 穏やかな声音に私は少し冷静を取り戻す。 「なんですか?」 「まず一つ…、貴方と彼の出会いを詳しく教えて下さい」 「そんなの…夕食の材料を買いにきた時に誘拐されて……であの人と一緒に食事を…好きになって」 「随分大幅と空白があるようですが、何故誘拐されたあとに食事を?好きになったのは誘拐されてすぐにですか?」 「わか…らない」 「わからない筈ありません…覚えている筈です。何故思い出さないのですか?思い出せないのですか?貴方は最初彼をどう思った?」 「怖い…と」 「ならおかしいですよ今の貴方の言葉は…色々省略されている…怖いのに好きで子供を産む…変じゃないですか?」 「私は…」 「貴方は最初…彼が怖かった…しかし怖くない…彼に気に入られ…好きになればいつか解放してくれると思った貴方は何回も何回も自己暗示し、今の貴方が出来上がった。嫌な事は忘れて……違いますか?」 「違う…違い…ます…そんなんじゃ」 「…暫く…入院しましょう。今は精神が不安定なので」 「な…」 顔がひきつった。 入院? そんな事したら彼に会えない…彼に心配させてしまう。 「嫌よ…っ…離して」 なんて医者なの!ナース二人が私を押さえつける… これじゃどっちが悪い奴かわからないじゃない。 私は母と医者を強く睨みつけたのだった…
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