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三年たっても、私の心の傷は消える事はなかった。
気づけば好きになっていたという自ら招いた自己暗示とそれで妊娠したという苦痛。
私は、中絶を選んだ。
赤ちゃんには悪い事をした。
私は自分の都合と耐えられない気持ちに小さな命を殺した。
その辺に咲く花や生き物を足で踏みつけるような軽い気持ちで殺した。
罪悪感はあった。でも憎悪もあった。
嫌悪感もあった。
被害者の筈なのに加害者になったかのような嫌な気分だ。
「……」
何もいないお腹をさする。
私はもう子供を産む事に恐怖を持つかもしれない。
大好きな愛する人と本当に結ばれて妊娠して、出産する時、心の底から喜べるだろうか。
きっと半分喜べて半分喜べない。
だって自分の中に赤ちゃんがいるというだけであの男の事をきっと思い出す。
そして私がその小さな命を殺した事も思い出すのだ。
三年もたつとあの男の事も被害者の事も皆忘れ、何事もなかったかのように日常が過ぎていく。
でも時折、覚えているであろう人間は私を同情な目でみるのだ。
それが耐えられない。
だからうつむく。
人の顔がみれない。
「…早く、家に帰らなきゃ」
買い物をすませ、家へ向かう。
あの時と違う。
今度はちゃんと買い物ができた。
それにあの事件のあと引っ越しもした。だから怖がりびくつかなくてもいいのだ。
それなのにまだ不安なのは心の傷が癒えていないだけ。
今は無理でもいつかはきっと癒える。
今度は前と違っと材料を買った。あとは帰って母と一緒に料理するだけ。
今日は母の自慢の…いや、二人でつくった自慢のカレー。
私は少し足を速めて家へ向かおうとした。
しかし…
「!!!」
「久しぶり」
「……」
知ってる声。
少し老けた顔。
でも、覚えている。
忘れたくても忘れられる筈ない。
スーパーの袋が落ちる。
わずかに中の具材が落ちた。
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