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「あ…あ」
「随分探した。隣町にいたんだな。あれから会いにきてくれないから心配していた。どうして突然こなくなったんだ?なんで引っ越しなんか…」
心配?
この男が?
心配なんてするわけない。
「それより、お腹が膨れていないという事は無事出産したんだな。女の子だったか?」
「!!」
忘れたい事を…笑顔で。
「だ」
震えながら…
「誰が…」
乾いた唇を舐めながら、私は勇気を出していった。
「誰があんたみたいな最低男の子なんか産むもんですか。おろしたに決まってるでしょ」
「……」
涼しい顔で微笑んだまま。
だけどそれがさっきまでと違うのをかすかに感じた。
「よく聞こえないな。…おろした?中絶したのか?」
「あ、当たり前でしょ!!」
「殺したのか」
「っ…」
「男だったかもしれない、女だったかもしれない無垢な命を、花を摘むかのように簡単に殺したのか?」
「…う、うるさい!!私だってしたくなかったわよ。赤ちゃんに罪はない。でも、あんたとの…犯罪者との子なんて嫌だったのよ!!」
「……」
大きく肩を揺らす。
全て言い切った。
満足でこれ以上ないくらいすっきりして、今までのモヤモヤしたものが全て抜けきったような清々しい感じ。
だけど、後になって自分が言った事に激しく後悔した。
「…結局女は皆同じか」
「!?」
口元を突然押さえつけられた。
「むぐ」
「声を出すなよ」
地を這うような声。
怖い。
目だけ動かして辺りをみる。
なぜこんな時に周りに誰もいないの!?
「やはりあんたを信じるんじゃなかった。少しでも信じようと思うんじゃなかった」
「……」
「でもそれでも俺はお前がほかの女と違う目でみてんだよ。そう簡単にお前を解放する心優しさはねーんだよ」
「……」
目を瞬く。
恐怖に硬直する。
「お前には何がなんでも赤ん坊を産んでもらう。女を一発で産めよ。失敗したらもう一回。何度でもだ」
「ひっ……」
そんなの無理。
男はまるで玩具のような目で私をみる。
いや、子供を産む玩具。
製造機みたいな目で……そこには憎悪しかない。だけど微かに目が熱を含んでいる。
裏切られてもそれでもまだ少し愛情があるようだ。
しかしそれは歪んだ愛情へ傾いている。
「死ぬことも逃げる事も許さない。産むまで…離しはしない」
「ぐ!!」
口元を塞がれたまま鳩尾を殴られる。
そして私は意識を失ったのだった。
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