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病院内で一つの産声が上がった……
「おめでとうございます、お母さん、元気な女の子ですよ」
「……」
微かなめまいと痛みの中、赤黒い粘膜の中それは出てきた。
臍の緒を切り、躯をタオルで拭き、しわくちゃな猿のような顔を私に見せてきた。
「……」
普通の母親ならここで涙を流すか抱きしめるか……可愛いというかだろう…、しかし私は無我夢中で産む事だけを考えていた…だから、赤ちゃんを見せられても何の感情も持たなかったのだ。
ただ、“あぁ…ようやく終わった…解放される”それだけ。
私はそれから病室のベッドへ寝かせられ、横には赤ちゃんと男がいた。
部屋には三人しかいない。
「よく頑張ったな」
男は微かに口元を綻ばせて私の頭を撫でた。気持ち悪いのに少し嬉しかった。
「名前は決めたか?」
「早いわよ…それに考えてなかった」
「じゃあ俺が決めておく…お前はゆっくり休め」
「ねぇ…赤ちゃんは産んだ…女の子だった。私をちゃんと解放してくれるよね?誰にもこの事は言わないからっ」
「あぁ…解放するといったのは嘘じゃない…だから」
男は私を抱きしめると囁くようにいった。
「ゆっくり休め」
瞬間。
「ぐぽっ…」
背中に回された手に持つ何かが私を貫く。
背中に刺さったのはきっと包丁かナイフかの鋭利なもの。
「あ…ぁ」
「痛いか?大丈夫だ…直に痛みすらなくなる」
「う…嘘…つき……な…んで」
「嘘?解放するとはいったが生きて解放するなんて一言もいっていない。俺は“解放”しかいっていないのだから」
や…やられ、た。
「がぽっ…」
最奥に刃物が突き刺さる。腸を破る勢いで…まるであの時無理矢理犯された時と同じ苦痛…いやそれ以上だった。
「この赤ん坊は俺が育てる。産まれたままの無垢な女なら信じられるからな…誰にも染まらない…染まらせるものか」
「あ…が…がが」
「なんだ?あぁ…そうか…早く解放されたいんだな…悪かった…じゃあすぐに解放してやる」
「ちがっ…」
プシューーー!
背中に刺したものを引き抜くと男は素早く私の喉元に突き刺した。勢いよく血飛沫が上がり、男はあたらないよう素早く後退する。わずかに靴の爪先に血がついたくらいだった。
白い純白のシーツが一瞬で赤に染まる。
男は眠っている赤ん坊を抱き上げると消えたのだった…
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