ディナー

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「今日は、あなたの子供が生まれた事を祝う為にお呼びしました。どうぞお掛け下さい」  そう言った男性……貴族はにこにこと笑顔で言った。長くて大きいテーブルには豪勢な食事が並んでいる。その奥に貴族はいた。客は誰一人おらず、きちんと並べられた多くの椅子の一つに赤ん坊を抱いた女性は座った。貴族とは椅子二つ分の距離をおいて。 「ああ、赤ん坊はこいつに任せて下さい」  貴族がそう言うと、女性の背後にスーツを着こなし気品のある男性……白髪のオールバックで鼻の下に髭を蓄えた年配のバトラーがいた。 「あの、泣いたりしたらすぐに呼んで下さいね」  背筋を伸ばし凛とした居住まいだが、見た目が老人の為か、恐る恐るバトラーに赤ん坊を預ける女性。  すやすやと小さな寝息を立てている赤ん坊を抱えて、バトラーは別の部屋へと移動する。  食事が進む。貴族と女性だけしかいないので、長いテーブルは持て余していた。  貴族と女性が料理を平らげる頃には女性の後方に、背筋を伸ばして立っているバトラーがいた。その横で、小さな木製のゆりかごに揺られながら、赤ん坊がすやすやと寝息を立てて眠っていた。 「次の食事が来るまで少し時間が掛かりそうですね」  独り言のように貴族は呟く。顎に手を当て、何かを考えている。 「そうだ。この話なら面白そうだ」  話のネタを思いつき、貴族は微笑んで女性に話し掛ける。
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