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私は当然、自分とMが同級生であることは明かさなかった。
スタッフの誰にも。
もちろん家族や友達にも、Mがクリニックに来たことは話さない。
それは専門職として守秘義務を守るというのは当前のことでもあるし、
なにより私だけが密かにMの「過去」と「現在」を知る…そのことこそが、彼女へのささやかな復讐だと思えたから。
私は、Mの「現在」を知ることに期待を高まらせながら、次週の来院日を待った。
********
あれから一週間。
カウンセリングの日がやってきた。
Mはほぼ時間通りに来院した。
身なりも整っているし、メイクもしっかりしているので、それほど症状は悪くないのだろう。
「彼女が井口さんの初カウンセリングの子?」
隣の席から、先輩事務員の高橋さんがこっそりと耳打ちした。
高橋さんはこのクリニック一番の古株で、患者さんのことなら何でも知っている生き字引だ。
「はい、院長が彼女と同年代のカウンセラーって言ってたんで、井口さんを推してみたんですけど…」
「なるほどね~。初診のカルテ見る限り、なかなか手強そうだから。井口さん、腕の見せどころだね」
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