雨のち、ケーキ。

2/3
前へ
/21ページ
次へ
俺は雨が嫌いだ。 朝起きて曇天の空を見ると少し憂鬱な気持ちになるし、洗濯物だって部屋の中で干すからカラリと乾かない。 車だって汚れるし、外を歩くときに水がはねてジーンズの裾が濡れるのも困る。 今日だってそうだ。彼女との久々のデートだったのに、朝から雨。 本当はチューリップが何万本も咲き乱れている綺麗な公園にドライブしにいく予定だったのに、天気のせいでそれも叶わず 近所の喫茶店で暇を潰している。 テレビで「夜には晴れるでしょう」と笑顔で伝えるアナウンサーに罪は無いんだけど、どうしても天気予報を恨んでしまう俺。 “夜に晴れても意味ねぇんだよ”という言葉は、口に出さずにしまい込んだ。 ちなみに彼女は何を頼もうかメニューと格闘中。苺のケーキにするかチョコケーキにするかで迷っているらしい。 ここの喫茶店のケーキは雑誌に載るくらいとても美味しいものだから、彼女が悩むのも分かる。 「二つ頼めば?」 俺が提案すると、彼女はメニューから顔を上げて困った表情を見せた。 「えっ、でも……そんなに食べきれないよ。」 「お互い半分ずつ交換したら、両方食べられるだろ。」 俺の言葉に、彼女の顔がパァッと輝く。 早速オーダーを頼んでいるのを見て、やれやれと思いながらも俺の顔は彼女と同じように笑顔だった。 結婚して数年が経ったとき、ふとその時のデートの話になった。 彼女は笑いながら、「チューリップ畑は見れなかったけど、それ以上に幸せだったわ。」と語ってくれた。 あれ以来、ケーキを買うときはいつも二つ選ぶようになった。 俺の誕生日も、彼女の誕生日も。 そして、生まれてきた子供の誕生日も。 いつも並ぶのは、苺のケーキとチョコケーキ。 それは雨がくれた、大切な大切な思い出だから。 END
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加