1108人が本棚に入れています
本棚に追加
第一章
全てに、絶望していた。
「……このまま雪に埋もれたら、凍死するかな。」
…俺は雪の上に寝転がっていた。その上に雪が積もる。
「………まあ、良いか。」
目を閉じる。……最近は、殆ど眠る事は無い。凍死するためには、眠らなければ駄目だったかな?
「…人の家の庭先で、何をしている。」
声がしたので、眼を開けて見る。……そこには、一人の青年が俺を見下ろしていた。
「全てに絶望したから、凍死しようと思って。」
俺は正直に答えた。
「ふーん。死ねそうか?」
「どうだろう。死んでもおたくには、関係ないだろ?」
なんだこの男。ほっといてくれよ。
「関係?…此処は、俺の家の庭だ。もし、お前が凍死したら、役所に届けてなければならない。そうなると、色々聞かれるだろうな。……面倒だから、余所の所で凍死してくれ。」
「……………なんだそれっ!優しくないぞ、あんた。」
あまりにも、ハッキリ言われて俺は、思わず笑ってしまった。
「なんだ。絶望している割には、笑えるじゃないか。」
「……あれ?…あんたが正直すぎるから、笑ったんだよ。」
「そうなのか。それは悪い事をしたな。」
本気で謝る。大丈夫かこいつ。
「詫びにお茶でも、ご馳走しよう。付いてこい。」
返事を待たず、男が屋敷に戻る。
「お茶より、酒が飲みたい。」
体を起こして、俺は言った。
「残念だが、俺は酒は飲まん。嫌なら飲むな。」
「……飲みますよ!」
俺は立ち上がり、俺の後を追った。
その夜、俺は久々に眠った。腕の中には、優しくない男を抱きながら。
最初のコメントを投稿しよう!