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目を凝らしてよく見てみる。体の隆起からして、どうやら人影は女性らしい。
こんな辺鄙な村に訪れる女性なんているのだろうか。規模が小さい【ジュネバ】に来る人など、旅人でも年に二、三人ぐらいだ。
記憶を探り考えつつ、人影に興味が湧き、クラウンは歩く速度を速くした。
近づくにつれ、人影はみるみる鮮明に象を映し始めた。
それほど高くない身長。光輝く金の髪。女性らしい豊満なボディ。
───なのに…おかしい。
服はボロボロだし。腕や太股も傷だらけ。後から気がついたが、歩き方からして足も折れているだろう。
何やら危険を感知したクラウンは、走って少女に近づいた。
「おいっ、大丈夫かよお前!」
倒れそうになる体を、肩を掴んで支える。
細い。女性の体とは、こんなにも細くて柔らかいのか。クラウンは初めての女性に、少し感心していた。それも、村にいる女性は皆老人が子供しかいないのだから。仕方ない。
「……だい……ぶ。……つらが…来る……」
途切れ途切れに喋る少女。かろうじてクラウンが聞き取れたのは〝来る〟という言葉のみ。
「何が来るんだ? お前ボロボロじゃないか。とりあえず医者ぁ!」
クラウンの怒鳴り声に、周りの村人達が反応してこちらを向く。皆、クラウンと少女を特異な目で見ている。
平穏な村に災いはいらない。その少女は災いを呼ぶ。目がそう訴えていた。クラウンが狩りでモンスターと対峙したときの、明らかな敵意とよく似ている。
この村に、少女の見方をする者は誰もいない。
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