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暗い、森の街道を一人で歩く影があった。
身長は170に届かず、細身の、性別は男だ。まだ少年の域を抜けきっていないような雰囲気を受ける。
漆黒のコートを纏っている。
フードを深く被っていて、その表情を拝むことはできない……。
『遂に来たな、この日が。』
男、いや、少年の耳元から声が聞こえた。
正確には、少年が耳に付けている小さな、機械から。コードレスのイヤホン、がぴったりな表現の機械だ。
「…まぁ、やるしかないよね。」
少年は苦笑いの声色で返した。
予想通り、その声はまだ声変わりが完全に終わっていない、どこか幼さが残る声だった。推測するに15、6歳だ。
「いつかはやらないといけないことだよ。…それが偶然、今日だっただけだ。」
少年がそう言うと、機械を通じて向こうからも、苦笑の声が聞こえた。
『…全く、心臓に毛が生えてるのか、それとも己の力に絶対の自信があるからか……。どちらにせよ、大した奴だよお前は』
数秒、ぬるい空気が流れたがその空気はすぐに掻き消えた。
『…強いぞ。[国殺し]は。今までお前が闘ったどんな奴よりも。遥かに。』
沈黙が流れる。
そんな中で、少年が唐突に小さく吹き出した。
『な、なにがおかしいんだ!!心配してやってんのによ。俺はこの年でお前の魂葬なんてしたくねぇんだよ!』
機械を通して、少し怒った声が聞こえた。
少年は笑うのを止めて、力強く言った。
「俺は、絶対に死なないし、死んでやるつもりはさらさらないよ。絶対に勝つ。」
しばらくの間、静寂が流れ、最後に
『…絶対、帰ってこいよ』
プツンと音がして、通信が切れた。
どうやら通信可能範囲から出たらしい。
少年はまた、小さく笑ったようだった。
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