光彩 -後編-

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翌朝、翔は父さんに車で駅まで送られて午前中に京都へ戻った。 昨夜はリビングに家族五人揃って酒を飲み、さおりと柊平の今後について、翔の大学生活や京都の話、俺の仕事や彩芽の仕事と近況について、そして別に知りたくはなかった両親の馴れ初めについてまで、色々な話をした。 世間はまだゴールデンウィークでもある日曜日、父さんもさおりも仕事が休みだが、部活動がある俺は午後から学校。 シャワーを浴びてゆっくりして少し早めに昼食を摂り、身支度を整えて自宅を出る。 北浜高校の職員用駐車場に車を停めて降りてから何となく周囲を見渡すが、当然ながら彩芽の車は何処にも無い。 彩芽とは昨日電話で話した。 さおりが柊平にプロポーズされた事は俺ら家族の誰よりも早くに聞いていて、先日さおりと二人で飲みに行った時はお互い少し泣いたらしい。 衣野と薪森も一緒に六人で婚約祝いをしたいとも言っていた。 職場の同僚として学校では敬語で事務的に話す彩芽とはまるで違い、これまでそれが当たり前だった筈の甘い声色のタメ口で話す彩芽に、何となく貴重さを感じ始めてしまっている現状。 何年も掛けて築き続けて来たものが、このまま同じ学校で勤務していくにつれ徐々に思わぬ方向へと逸れていくのだろうか。 彩芽はどうなのか分からないが、俺は変化なんか一切求めていないのに。
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