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小学生男子ともなれば、皆は道場に居る時とプライベートで“僕”と“俺”を器用に使い分け始めた。 周囲がそうでも、僕は未だに一貫して“僕”を使っている。 一人称を使い分けるより一貫した方が楽だし、その方が筋が一本通っている気がするから。 それに僕は周囲と違って“僕”と言う事を特に恥ずかしく思わないし、何よりも師範の教えに忠実な弟子でありたかった。 流石に小四にもなれば突っ込まれてしまう事も増え、一々説明するのは面倒だとは思っても変えるつもりは無い。 僕は師範の教訓全てを信望していた。 「いいな、そういうの!何かカッコイイよ!」 突然、恭平が笑顔で言った。 「自分の事“僕”って言う奴あんまいないから逆に新鮮だし、何かカッコイイよ!」 感銘を受けたかの様な反応を示す恭平に驚いた。 今までに無かった、全く思い掛けなかった言葉が返ってきたから。 「うん。先生の教訓通りに生きてくのって素敵な事だと思う」 恭平に同意した薪森に視線を移すと、彼女は澄んだ優しい瞳で僕を見つめていた。
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