二十九

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遂に口に出してしまった。 やっと云えた。 だからといって脱力する暇は無くて、もう一つ達成しなければいけないものがある。 俺は頭を下に向けたまま左脚の膝から左手を離して上半身をゆっくり上げ、左手をパーカーの左ポケットに入れて取り出す。 プレゼント用にラッピングされた細長い箱。 「一日……つか、数時間、ちょっと早いけど……」 彩芽の顔から視線を外したままそれを差し出すと、それを遠慮がちな様子でゆっくりと受け取る彼女の両手が視界に入る。 彩芽が受け取ってくれただけで、もう倒れそうになるほど全身が軽くなって浮遊しそうだ。   「……誕生日おめでとう」 告白するだけでも俺にとっては相当な労力を要しただけに、こんなの顔から火が噴き出ない方が無理という位に瀕死寸前。 けどこれは腕時計の御礼であり、誕生日プレゼントであり、自分の想いを示した物だから今渡さないと意味が無いので頑張った。 「……遼くんが買ってくれたの?……あたしの為に……?」 謝罪も愛の告白もずっと黙って聞いていた彩芽が、冷たい夜風に消え入りそうな声を俺へ向けた。
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