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相手から悪意を感じられず、子爵と名乗った少年は寝台に腰を下ろした。
伯爵も同じように、近くのソファーに腰掛ける。
二人は同時に足を組む。
「オレになんか用か?」
「ボクに用があるんでしょう?」
子爵が首を傾げると、伯爵も同じように首を傾げる。
「…………『伯爵』は……オレなのか?」
「ボクはボクだよ。君はボクじゃない」
「じゃあ『伯爵』はオレじゃないだろう」
「さぁ? 君がボクを自分だと思うなら、君にとっての真実はそこに付随する」
「『オレにとって』じゃなく『世の理(コトワリ)にのっとり』、だ」
「世の理、が何なのか、君は知るのかい? それはボクには解らないけれど」
「……オレと『伯爵』が違う物で出来ているかどうかだ」
「さぁ? ボクは自分が何で出来ているか、知らないから」
くすくす、と伯爵は笑う。
問い掛ければ問い掛ける程に確かなものが消えて。
あやふやな世界がそこに寝そべっているように感じられ、子爵は唸った。
「……つまり、『伯爵』にとっての真実は『君はボクじゃない』となり、オレの真実は『疑わしい』になるのか」
「ふむ。君は頭がいいね。恐らくはそういうことで、世の理とはそういうもの、なんだろうとボクは思う」
伯爵の興味深げな視線に子爵は話が進まない、と目眩を覚える。
嫌いな話ではないが、彼の言いたいことは僅かにぼんやりと解るだけで、全てを知ろうとすれば長い時間がかかるだろう。
だが、それはそれでいいか、と子爵は立ち上がる。
「お茶くらい飲めるだろう? 時間はまだあるか? 伯爵」
片眼鏡を押し上げながら、伯爵はにっこりと頷いた。
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